こんにちは。北海道札幌市の行政書士、安藤です。

本日は、前回の続きです。(前回の内容は→こちらをどうぞ♪

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もう一度、前回の要点を以下に記載してみたいと思います。

①Aは生活が苦しく、家賃を支払うためBから5万円を借りた。

②Aは支払い期限に5万円を用意できなかったので、自分の古いレコードをBにあげる(=譲渡する)ことで5万円を返済する代わりにしてもらった。(Bもそれを了承した。)

③後日Aは自分の古いレコードに10万円の値が付いていることを知り、Aは「自分が借りたのは5万円なので、(売ったら10万円になるので)差額の5万円を返してほしい」旨をBに要求した。

BはAに5万円を返すべきか?

では、まず一つずつ見ていきたいと思います。

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①から、AとBの間で何が行われたのか。

①では、Aが「5万円貸して」という申込みをし、Bが「いいよ」という承諾をしました。

Aのように『申込み』をし、Bが『承諾』をすると、『契約』が成立します。(今回は要物契約なので、厳密に言えばAがBから借りた「5万円」を受け取ることによって、契約が成立することになります。要物契約については、今回は割愛します。)

従って今回はお金の貸し借りに関することなので、AとBの間で『金銭消費貸借契約』が成立しました。

※ちなみに金銭消費貸借契約は、契約書を作成しなくても有効に成立します。普段皆さまがスーパー等で買い物をするときに、売買契約が成立していますが、それが契約書なしでも行えるのと同様です。

※2020年4月1日追記:法改正により「諾成的消費貸借契約」も併存的に認められることになりました。ただし、「諾成的消費貸借契約」の場合は『書面』ですることが要求されます(2020年4月1日施行)。

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②から、AとBの間で何が行われたのか。

①で金銭消費貸借契約が成立しました。

Bには「5万円を返せ」という債権(=ほぼ『請求権』と同義)が発生し、Aには「5万円を返す」という債務(=ほぼ『義務』と同義)が発生します。

つまり原則『5万円』を返済しない限りBは「5万円を返せ」という債権を持ち続け、Aは「5万円を返す」という債務を負い続けます。

また債務を負い続けるだけではなく、Aは債務不履行を負ってしまう可能性もあります。

※債務不履行・・・債務者(=本事例ではA)が正当な理由がないにもかかわらず、債務の本旨にしたがった履行をしない(=本事例では5万円を返済しない)こと。

債務不履行となった場合、Aは、Bから損害賠償請求等をされてしまいます。

Aが5万円を返済すれば、Bから債務不履行による損害賠償請求等はされません。

しかし、他にもAが損害賠償請求等を免れる方法があります。

その一つが、本事例の『自分の古いレコードを譲渡する』ことなんです。

これは、『5万円』を返済するわりに『自分の古いレコード』という弁済するという、『代物弁済』というものです。

つまり、②では代物弁済が行われたのでした。

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では③のように、Aが本来弁済する金額(=5万円)よりも高価なレコード(=10万円)をBに弁済した場合、Aはその差額分の5万円を返してもらえるか。

先に結論から申し上げます。

Aは5万円を返してもらえません!(つまり、Bはレコードを売って10万円を手に入れたとしても、Aには何も返す必要はない。)

この結論はどうでしょう。皆さまの中には、「それはおかしいんじゃないの?」と思う方がいらっしゃるかもしれませんね。

そこで(人としての感覚はともかく)、法律はどう考えているのかをご説明したいと思います。

まず、通常の弁済から考えてみます。

Aが通常の弁済(=5万円を返済)をすると、Bの債権は消滅します。

これは、Bは「5万円を返せ」という債権を持っていたが5万円を返してもらったので、「5万円を返せ」という権利は消滅した、ということです。

また、Aの「5万円を返す」という債務も同様に消滅します(考え方はBの債権が消滅した場合と同じです)。

従って、この『通常の弁済』の場合、Bは(当然ですが)Aには何も返す必要はありません。

しかし今回は通常の弁済ではなく、代物弁済です。

では、『代物弁済』の効力と『通常の弁済』の効力は異なるのか、というのを次に見ていきましょう。

民法482条は、「弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。」と言っています。

「当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。」とあるように、「Aが自分のレコードを譲渡した『代物弁済』は、『通常の弁済』をしたことと何ら変わりませんよ」と民法482条は言っているのです。

では『通常の弁済』のとき、BはAに何か返す義務が生じたでしょうか。

いいえ、BはAに何も返しませんでしたね。

従って『代物弁済』は『通常の弁済』と同じ効力を有するので、『代物弁済』の場合であっても、BはAに何も返さなくて良い(=差額の5万円を返さなくて良い)のです。

いかがでしたでしょうか。

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最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。

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